『自由への歌』
音楽 一ノ瀬季生
ニューオーリンズ・ジャズ! 動物たちへの応援歌だ。『新・動物農場』の主な音楽はこのジャズの雰囲気で作られている。演出の東口から「ジャック・ティーガーデンの演奏する"Wolverine Blues"の感じでいきたい」とバッチリな提案があり、即OK。彼らとほぼ同時期の黒人バンドの渦巻き放射する音こそ不条理な拘束のくびきを脱し、自由を求める動物たちの今日の歌にふさわしいと感じるからだ。この最も初期のスタイルのジャズは、ブラスバンドやラグタイム、ブルースなどが主要素となっていることからとにかく賑やかでパワフルだ。南部の黒人の葬送の時(多くは埋葬後のパレードで)「聖者の行進」が威勢よくバンド演奏された時代でもある。
そもそもジャズはアメリカの奴隷制という背景があって生まれた。ジャズに欠かせないのが即興演奏だが、これも奴隷制と無関係ではなかっただろう。彼らは枠にはめられた演奏を嫌った。そして和声の進行にとらわれるよりも、ハートが打ち出すビートをぶつけ合い、魂が繰り出す旋律を紡ぎ合うことを選んだのだ。抑圧された人間性を解放させる唯一の方法が音楽だった人々の、その一人ひとりの声があのトランペット、トロンボーン、クラリネット、チューバ、ドラムスなどの音だった。
そのような即興(複数の楽器が対等に異なる旋律を同時進行する演奏)の結果、音楽はポリフォニーという音楽形式と似通うものとなった。ポリフォニーからはゴシック大聖堂で厳かに演奏される多声部の宗教曲がまず連想されるが、ニューオーリンズ・ジャズのそれは人間的なビートが演奏者の今を表現するものとなっている。そしてそれは自由への希求を熱くシャウトしながらも楽天性を保持しているものだった。
さて、『動物農場』発表の4年後、ジョージ・オーウェルは近未来社会の恐怖を描いた『一九八四年』を上梓するが、そこに描かれたオセアニア国ではすべての市民生活が当局によって監視され、思想、言語、あらゆるものが独裁者の統制下にあるというものだ。しかし、振り返って今日の日本も実にきな臭く、さまざまな文化が、教育が、表現の自由が危機にある。
このドラマの動物たちの明るい歌声が抑圧された動物たちの解放への力になり、また私たち自身の力にもなることを願いつつ。