『願い』
人形美術 松原康弘
以前、動物農場の住人たちと格闘したのは13年前になります。それから今までの間に私自身にもいろいろ変化がありました。体重がひどく重くなったり、眼鏡が老眼鏡になったり、髪がなくなったり・・・。でも一番大きかったのは、家族がひとり増えたことです。
こどもはもちろん大変可愛いのですが、時として容赦なく大人が誤魔化していることをついてきます。「どうして?」と。
近頃の事件や事故や出来事には、その小学校一年生にもし真正面から「どうして?」と聞かれたら答えられないことがあまりに多すぎます。この子が青年になった時にどんな世の中でどんな生活を送っているのか、とても心配です。いつまでも今のまま「はやくあしたにならないかなぁ」と明日を楽しみにしていてくれれば・・・。
今回の新・動物農場の住人も明日への希望に満ちているはずです。いろんな困難にあって歯車が狂っていって何度萎えたとしても、最後には仲間と一緒にもう一度はね返す底力を持った動物たちであってほしい。そんな思いを届けたいと願って、また格闘しています。
「新・動物農場」の舞台にむかって
舞台美術 西島加寿子
作品にむかうにあたり、13年前この作品に出会った時と何が違うのだろうかと……。
前回パンフレットでは、ベンジャミンのせりふ「砂上の楼閣だ」からイメージを持って舞台を創ったように書いた。それには、生きていく中でいくら努力をしても、何かを築きあげても、むなしく崩れ去る。現実社会は不安定で、みんながみんなで幸せになりたいと素朴に願っているはずなのに噛み合っていかない。人々の生きている社会はそういうものなのか。そんな思いがあった。
でも今、私たちは悲しい震災を経験した。私たちは、社会が人々が生きるものすべてが、生命のつながりの中で大切にしなければならない何かに気がついた。本当に、シンプルに、地に足をつけ、みんなが生命を大切に生きていこうという……。
そんな今の思いが、どれだけ今回の「新・動物農場」の舞台で表現できるだろうか。
どんな現実社会であっても、生きていくものたちが、お互いを認め合い、生き生きと、前向きに生きていこうとする作品になればと思う。また、人形たちはこの作品世界の中できっとそのことを表現してくれると願う。