ものがたり

 

 がたん。暗闇に物音。山小屋の中、ヤギのメイは体をびくんとさせた。外はひどい嵐。荒い息遣いが、メイに近づいてきました。
「ひづめの音。よかった、ヤギだ。・・・すごい嵐ですね」
メイはほっとして話しかけました。ところがそれは、足を引きずった一匹のオオカミ、ガブだったのです。
「おや、これはひつれい。真っ暗でちっとも気づきやせんで」
 二匹は嵐の過ぎるのを待っているうちに、すっかり仲良くなりました。
「おいら、よくフカフカ谷のあたりにえさを食べに行きますよ」
「おやぐうぜん、わたしもですよ」
メイは柔らかそうな緑の草を、ガブはのんびり草をはむヤギの群を思い浮かべて言いました。
「そうだ、どうです、今度お食事でも」
「いいっすねえ」
合い言葉は『あらしのよるに』。
 

 真っ青な空の下、ふたたび会った二匹。しばらくポカンと見つめあい、やがて急に笑いだしました。
「おいら、こう見えても何より友情を大切にしてるんす」
「おや、わたしもですよ」
そう言いながら、二匹とも、ときどき自分の頭をポカポカ叩いたりして、なんだかおかしな様子。
「おいらなんて奴だ、一瞬でも友だちの事をうまそうだなんて」
「わたしはなんて奴だ、友だちがわたしを食べるつもりかも、だなんて」
 ガブはメイをさそって、お月見に出かけました。ところが、そこにはガブの仲間のオオカミたちが待ちうけていたのです。ガブとメイは洞窟に逃げこみました。
「おいら、メイにどうしても見せたかったんでやんす。
 やなことなんて、みーんな忘れちまうくらい、素敵な月なんす」
「わたし、ガブと話してるときも、やなことみーんな忘れてるんですよ」
「お、おいらもです」
「わたしたち、ひみつの友だちみたいですね」
二匹はますます友情を深めあうのでした。
 

 ある日、ガブは仲間に、「ヤギはエサだ。エサと友だちになったりしたら、俺たちは生きられないんだ」と、メイも「生まれた時から一緒の俺たちと、この間知り合ったばかりの友だちと、どっちが大切なんだ?」と、責め立てられました。
 メイとガブは決心しました。
「行こう、あの山の向こうに」
 どこまでも追ってくるオオカミたち。目の前にはそびえ立つ雪山。
二匹はそのむこうにある緑の森をめざして歩き始めました。
息もつけない吹雪の中へ・・・。



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