演出と脚色について

君に見せたかった満月
演出/三木 孝信

 嵐の夜に一匹のヤギとオオカミが相手を仲間と勘違いして意気投合してしまった。次の日、お互いの正体を知ったニ匹は悲鳴を上げることもなく、ぺロリと食べてしまうこともなかった。おまけにオオカミのガブはどうしてもポロポロヶ丘から見上げる満月をヤギのメイに見せたかった。いや、ふたりして一緒に見たかった。その満月はオオカミの宝物だったのだろう。宝物を分かち合った二匹の心は満月の光りのように明るく温かだった。
 人形劇『あらしのよるに』はヤギのメイとオオカミのガブが道案内をして、もし君がメイならどうする? もし君がガブならどうする? と立ち止まり、立ち止まり問いかける人形劇です。出会いは偶然に始まったけれど、二匹はどんどんどんどん、相手のことが気になってゆく。知らない怖さを乗り越えて、まず信じてみようと考えた。疑うことよりも、信じることを選んだふたりの心と身体(生命)は見違えるほどポジティブだ。一人でなら乗り越えられない困難も信じる友達がそこにいれば乗り越えられる。きっと信じることは生命の交流なのだろう。

ある日突然、私たちは皆さんのいる場所にヤギとオオカミが棲むサワサワ山やバクバク谷を出現させます。メイとガブが暮らす山や谷に立って一緒に友達のことを考えてみましょう。道案内は岩山の崖へ、霧の丘へ、暗闇の洞窟へ、轟々と流れる巨大な滝へ、深い雪山へ、そして緑の山へ皆さんをお連れします。ゆっくりと昇る太陽や、美しい月が照らし出される小宇宙を体感して下さい。そして、ガブがメイに見せたかったポロポロヶ丘の上に昇る満月を一緒に見上げましょう。君に見せたかった満月を。

絶対に消えない友だち
脚色/東口 次登

 世界の平和を目指して、友情(友好)の握手を交わした国々が、突然、握手を忘れて戦い始める。人間はなんと忘れっぽい生き物だろう。
 それともその友情は本物でなかったのだろうか。世界の一人ひとりは幸せになることを望んでいるのに、それがものすごく大きな集団になるとゆがんでしまうのだろうか。人間てなんだろう? もっと人間の奥底にある感情というものをじっくり表現したくて、「あらしのよるに」を人形芝居にしました。 喰う喰われる関係にあるオオカミとヤギが友だちになる。だが、そのお互いの心の中はどうだろう。いつ破綻してもおかしくない状況だ。オオカミがぺロリとヤギを喰っちまえばいいのだから。互いの心の中を探りあいながら、緊迫した中で友だちであり続ける二匹。その困難な道を歩むことで二匹は真の友だちになる。そして、ヤギはオオカミにいう「友だちだったことは絶対に消えない」と・・・。
 人間は友だちだったことを忘れるから戦うのかもしれない。
「心のそこから消えない友だちが、今、絶対に必要なのだ」と思う。 よく読まれている絵本ですが、今回は人形芝居ならではの世界で是非ご堪能ください。 この芝居は全六巻の原作を再構成して、一本のドラマに仕上げました。



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