新・動物農場

家畜として生まれた動物たちは、自らは何もせず、搾取し消費するだけの人間に憤っていた。
「人間は、ミルクも出せなければ卵も産めない。力がなくて、鋤も引けない。それなのに我々動物の上に君臨している。ミルクを出し、卵を産み、鋤を引く我々は、授かった命を全うすることさえ許されていない」
長老豚メージャーによってその事実に気づかされた動物たちがついに立ち上がった。人間を追い出し、荘園農場の名を「動物農場」と改めた。自由に生きるための法律「動物農場七戒」を定め、指導者のいない動物農場でみんなが責任を持って懸命に働き、収穫は大成功を収めた。皆は腹一杯食べ、とても幸せだった。
やがて、メージャーから人間の知識と学問を授けられ、農場の頭脳として働いていた3匹の賢い豚、スノーボール・ナポレオン・スクィラーの意見が割れ始めた。農場の未来を案じて風車の計画に取り掛かるスノーボールに対し、目先の収穫に拘るナポレオンとスクィラー。動物たちはその間で揺れ動きながらも、徐々にスクィラーの巧みな演説に誘導され、ついにスノーボールを人間のスパイと断定し農場から追い出してしまう。  そして、農場の指導者となったナポレオンの指揮の下、動物たちは風車の建設に取り掛かり始めた。人一倍働くボクサーや小言を言いながらも働くベンジャミンに対し、リボンや甘い砂糖を好むモリーは、動物たちの輪から離れて行く。
そんな中、かつての農場主ジョーンズが風車の計画を知ることとなる。
風車が完成しようとする頃、動物農場に人間たちが現れた。人間は風車に爆薬を詰め込み、跡形もなく壊してしまった。怒り狂い、人間に立ち向かっていく動物たちだったが、多くの犠牲を生んでしまう。
やるせなく悲嘆する動物たちを前に、ナポレオンとスクィラーは「風車の戦いだ」と鼓舞し、その裏で敵であるはずの人間たちと取引を始めた。
厳しい冬が訪れ、農場での収穫は減る一方。動物たちへの配給は日に日に減っていった。農場一の働き者ボクサーが倒れ、ナポレオンは、医者と偽り屠殺業者を呼んだ。そうとは知らずボクサーに見舞いの言葉をかける動物たちに、ベンジャミンが初めて声を上げた。
「お前さんたちがハエだ! わしら年寄りや弱いものにたかるハエだ!」
もはや豚は人間だった。人間と同じ格好をし、二本足で歩いた。仲間であるはずの動物たちの上に君臨していた。
しかし動物たちは、ナポレオンの駆り立てた猟犬にも、振り上げられた鞭にも怯まず立ち向かった。
俺たちには夢がある
弱いものも 強いものも
賢いものも 愚かなものも
みんなが自由に 大地を駈ける夢さ
ミューリエルが唄い出した「大地を駈ける」に、他の動物たちも続く。そしてついに、何度も書き換えられた動物農場七戒の看板を倒した。
すべて終わった静寂の中、動物農場に舞い込んだ一陣の風によって風車が回り始めた。

原作 ジョージ・オーウェル
翻訳・脚本・演出 東口次登
人形美術 永島梨枝子
舞台美術 西島加寿子
音楽 一ノ瀬季生
照明 永山康英
舞台監督 藤田光平
舞台監督助手 宮本敦
制作 中山美津子

脚色・演出のことば

「動物農場」から「新・動物農場」へ 東口次登

今回の作品は1999年に上演したものに、新たに手を加えたものです。
初演の時は、2000年問題で世紀末を叫ぶ人もいて不安な年でした。そして東海村の核燃料工場で日本初の臨界事故が起きました。作業工程に「裏マニュアル」があり、結果被爆者を出して周辺住民が避難し、約30万人が屋内退避をしました。あれから12年、東日本大震災が発生し、福島原発事故の処理は一年半すぎた現在も問題は山積みです(東海村の事故は活かされたのでしょうか?)。この事故での国の対応の危うさや、国民が国に本当に守られているのだろうかといった当然の疑念が原発反対デモなどにも現れている気がします。そして貧困率が上昇し、消費税も上がり、仕事が見つからない人や老人や子どもたちは、誰が守ってくれるのでしょうか?
そこでもう一度「動物農場」の上演を決意しました。原作は旧ソビエト連邦の神秘を暴くために書かれていると言われますが、現在の日本にもよく当てはまる内容です。いつの世でも権力は腐敗し、国民には平等と唄いながら一部の力あるものが支配する、そして法律が都合のよいように変えられ、基本的人権が失われていく。3.11後、今が特にその時代のように思えてなりません。個々人がこれからどう生きて行くべきか、それぞれが判断し決断しなければならない世の中になったような気がしてなりません。
こう書くと未来や希望のない本に思われますが、オーウェルはもっと民衆がそのことに早く気づき、より豊かな社会をつくってくれることを望んでいたと思います。あえて動物による寓話にしたのは、動物独自の持っている個性とそこから想像させられる愉快な人間像で持って、このディストピアな世界をユーモラスに表現したかったのだろうと思います。
今回は、動物たっちが『♪自由に大地を駈ける(革命家)』世界を描くために、希望のもてる作品に書き換え『新・動物農場』としました。オーウェルはきっと許してくれると思っています。