今振り返ったら、理不尽だった事もあるし、ちょっと待てばいい事もあり、少し我慢すればすむ事もありました。
なのに、その一つ一つに腹を立てていた10代の頃。
そんな子ども達の気持ちをあさのあつこさんは『いえでででんしゃ』に乗って子ども達の心に届けました。
私達も人形劇で子どもに向かって『いえでででんしゃ』を走らせたいと思っています。
ムジツノツミで母親に叱られ家出をしたさくら子は、家出した子しか乗れない不思議な電車”いででででんしゃ”に乗ります。中には変なしゃしょうさん。次の駅で乗ってきたのは、家出をしてきた鷹の仲間のチョウゲンボウ。その次は深海魚のリュウグウノツカイ。
そのたびに”いえでででんしゃ”は空を飛んだり、海の底までもぐったり。しゃしょうさんはみんなの行きたいところへ連れて行ってあげると言うけれど、何だか変。それにみんなの行きたいところって・・・。
みんなにも分からないのに、しゃしょうさんに分かるのかしら。
疑問に思ったら、あらら、”いえでででんしゃ”の様子が変。さくら子たちはどうなるのでしょうか。
原作 | あさのあつこ(新日本出版社刊) |
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脚色 | 松本則子 |
演出 | 宮本敦 |
人形美術 | 永島梨枝子 |
舞台美術 | 西島加寿子 |
音楽 | 一ノ瀬季生 |
舞台監督 | 松原康弘 |
照明 | 永山康英 |
制作 | 松澤美保 |
写真 | 田嶋晢 |
上演時間 | 1時間5分(休憩なし) |
編成人数 | 6人 |
準備時間 | 2~3時間 |
観客人数 | 400人程度(全学年対象) |
電気容量 | 単相三線60A以上 ※フロアーに舞台を組みます。照明、音響機材持ち込み。暗幕をご用意ください。 |
助成 | 文化芸術振興費補助金(トップレベルの舞台芸術創造事業) |
子どもにとって、家出は勇気のいることだと思います。どうしても曲げられない想いを親の力で封じ込められた時、それでも自分を通すための最後の手段が、家出なのかもしれません。
私の小学生の時の「いえで」は30分で終わりました。夜中に行き場もなく、隣の駐車場の陰にじっと隠れていただけでした。もちろん本当の家出とは呼べません。でもよく覚えています。家を出る時の怒りと悔しさ、隠れている間の心細さと迷い、母に見つかった時の恥ずかしさと安堵感。
さくら子のように本当の家出をしようと飛び出すような子どもたち、私のように本当の家出とまではとても出来ない子どもたち、みんなの気持ちを乗せて「いえでででんしゃ」は走ります。その行く先は子どもたちの気持ち次第です。
そして降りる時には、乗る時とは違う勇気が必要です。それはきっと、乗る勇気よりずっと大切な勇気です。
この人形劇を通して、さくら子たちと気持ちを分かち合い、いえでででんしゃを降りる「勇気」を受け取って貰えることを願っています。
『いえでででんしゃ』を書いたのは、もう何年も前のことです。
我が家の裏は小さな空き地になっているのですが、何かの理由で子どもたちをがみがみと怒鳴った後(大人って、怒鳴った理由なんてすぐ忘れちゃうんですよね。どんな言葉で怒ったかも。でも、怒鳴られた子どもたちはちゃんと覚えているんです)、ふっと、窓から外を見ると、その空き地が夕日の色に染まっていたのです。赤とかオレンジとか朱とか、そんなはっきりとした色ではなく・・・ええ、夕日色としかいいようのない色に染まっていました。
そのとき、思い出したのです。昔、昔、わたしが少女であったころ、親にとても理不尽な叱られ方をしたことがありました(どんな理由か覚えています)。悔しくてせつなくて、このままどこかに行ってしまいたいと本気で考えたものでした。それを思い出したとたん、『いえでででんしゃ』の物語が生まれました。
家出をする子は誰でも乗れる電車です。少女のわたしが乗りたかった電車です。この物語を書きながらもがみがみ怒ることしかできない自分が恥ずかしくなりました。
舞台の上をどんないえでででんしゃが走るのでしょうか。楽しみでなりません。
1954年岡山県に生まれる。青山学院大学文学部卒業。岡山市にて小学校の臨時教諭を務めた後、結婚。3児の母。子育てをしながら作家デビュー。『バッテリー』(角川文庫)で野間児童文芸賞受賞、『バッテリー2』で日本児童文学者協会賞、『バッテリー』全6巻で小学館児童出版文化賞を受賞。
その他の代表作に『No.6』(講談社文庫)、『THE MANZAI』(ジャイブ・ピュアフル文庫)、『あかね色の風/ラブ・レター』(幻冬舎文庫)、『ガールズ・ブルー』(文春文庫)、『ランナー』(幻冬舎)などがある。
心が通い合う感動を生きる力に
脚色/松本則子
私は長女で妹が二人います。二人の妹が喧嘩をして大泣きをするとなぜか私が怒られるのです。家の中を三人で大暴れをして遊んでいると堪忍袋を切らした母が怒ります。決まり文句は「姉ちゃんが悪い」
「今からしようと思っている」のに、もう1分だけ待ってくれたら「言われる前にできた」のにと、腹を立て、自分の存在を否定されたような腹立ちを覚えていたあの頃。
原作を読んでその頃の自分に会って、腹を立てている自分をいとおしみたくなりました。そんな心を届けたくて脚色しました。
私のこどもの頃より何倍も人と人との関係が希薄になり、親と子の関係が社会問題になっている今の時代です。もちろんそんな甘い感傷だけで子ども達の心には届かないでしょう。
でも本当に心が通うという感動を伝えることは出来ると思います。それが生きていくエネルギーになるという事を信じて、私の仲間で同士である子ども達にこの人形劇を贈ります。