乞食は乞食をやり、泥棒は泥棒をやり、売春婦は売春をやっている。ロンドンの裏町、ソーホー。金曜日の女王様の戴冠式を前に沸き立つ街角で、大道歌手が歌う。「メッキー・メッサー懸賞はいくらだい?」
”ドスのメッキー”ことメッキー・メッサーはおたずねもの。 古
銅貨のマティヤス”、 鋸のロバート”、 鍵指のジェーコブ”ら子分たちを束ねる大悪党。
ジョナサン・ジェルマイヤー・ピーチャムは、乞食屋の元締めをしていた。乞食たちに、許可証と職場を与え、その代わり稼ぎの50%、衣装付きで70%を懐に収める。彼は夫人のシーリアと乞食衣装店も経営していた。気懸かりなのは、一人娘ポリーに付きまとう男。シーリアによれば、その男はいつも白のなめし皮手袋をして、象牙の柄のステッキを持ち、エナメルの靴を履き、みんなから隊長と呼ばれている。ピーチャムは飛び上がった。「そいつはメッキー・メッサ−だ!」
戴冠式も間近い水曜のことだった。
火曜の晩に、メッキーとポリーは結婚式を挙げていた。他人の馬小屋の中で。盗賊団の隊長の花嫁になったポリーは、「ぼろを着た皿洗いの娘が、ある日突然、大海賊船に乗って町を去って行く」みたいに幸せだった。お祝に駆け付けたのは、 タイガー・ブラウン”こと警視総監のブラウン。盗賊団の隊長とロンドン警察の大将は戦友だった。2人の友情の絆は強い。メッキーは、盗品の一部をブラウンに渡し、ブラウンは一斉検挙の日を知らせ、メッキーに不利な証拠を全部もみ消していた。戴冠式を無事に済ませることで頭が一杯のブラウンは、荒々しく馬小屋から出て行った。
木曜の朝、家を出て行こうとするポリーに、ピーチャム夫妻はメッキーとの離婚を迫るが、ポリーも頑として聞き入れない。しかし、ピーチャムの頭にメッキーを絞首台に送り娘を取り戻した上に、40ポンドの懸賞金をせしめる計画が浮かんだ。ピーチャムはロンドン警察に走る。ブラウンにメッキーを逮捕するよう直談判するために。シーリアは売春宿に走る。メッキーが来たら警察に密告するように唆すために。ポリーは馬小屋に走る。メッキーに浮気などせず身を隠すよう薦めるために。メッキーは商売の指揮をポリーに任せ、馬小屋を後にした。その時、女王の戴冠式の行列がロンドンに入ったことを知らせる鐘の音が鳴り響いた。
木曜の晩。売春宿に出向いたシーリアは、呑み屋のジェニーに、13シリングの報酬でメッキーを警察に密告するよう唆す。捕まるとわかって来るはずがない、と誰もが思ったがメッキーはやってきた。そっと、その場を離れるジェニ−ー。今となれば懐かしい話だが、メッキーはジェニーのヒモで所帯を持ったこともあった。ジェニーの密告を受けて、スミスら警官たちたちがメッキーを捕らえ、死刑囚たを収容する監獄に連行した。
鉄格子部屋に閉じ込められたメッキーの目の前に、大きなお腹を抱え、怒り心頭のルーシーが現れた。メッキーはルーシーとも結婚を約束していたのだった。そこにポリーがやってきた。睨み合うルーシーとポリー。困り果てたメッキー。だが一番困るのは、この場にルーシーの父親のブラウンがやってくること。運良くポリ−がシーリアに連れ帰らされると、メッキーはうまくスミスをはぐらかし、脱獄に成功した。メッキーの脱獄を悟り、胸をなでおろすブラウン。しかし、懸賞金を取りにきた 乞食王”ピーチャムは、メッキーを絞首刑にあげなければ、女王の戴冠式は乞食のデモ行進で滅茶苦茶になり、警視総監は死刑になるだろうと言い残して帰っていった。意を決し警官達に集合かけたブラウンはどう出るか、そして命拾いしたメッキーはどこに・・・。遂に、戴冠式の徴兵の衛兵が整列する太鼓が鳴り始めた。