大人のための人形劇

名誉劇団員 芳川雅勇


    
  
  大人のための人形劇とタイトルを打って、公演したのは、今から40年前、66年10月だった。吉田清治、作・演出「死を求める男」と、宇津木秀甫、作・演出「鯨おどり」の2本立て。劇場は当時クラルテのホームグラウンドだった朝日生命ホール。人形のパントマイム中心で表現された「死を求める男」と堺に伝わる鯨おどりを扱った一時間を超える民話劇。

  翌年、初春、朝日座で大阪労演勤労者音響協会)例会として企画された。「人形劇・伝統と現代」に五十分に作り直し、文楽の「心中天網島」との共演が実現した。音楽が太棹三味線のみ。

  作曲は、先だって亡くなられた野沢喜左衛門師(当時、勝平)。演奏もされ、鶴沢清治さんと二人の生演奏。この試みが大阪労演が取り上げた理由の一つだったろう。それまで、大人と銘打った公演はなかっただけに、作品への熱い思いが込められていたと思う。

  前半、上演した北杜夫・原作、吉田清治・脚色・演出「船乗りプクプクの冒険」が、対象不明瞭の消化不良に終わったのが、次なるチャレンジに向かったと言える。翌年から吉田清治、民話三部作に向かい、親子共に楽しめるレパートリー路線となり、大人のためにタイトルは消え73年近松没後二百五十年忌に上演した「女殺油地獄」からの古典シリーズにつながる。近松作品というだけで大人向きとされる。といことは作品次第ということか・・・。

  ハムレットや三文オペラ然り。今、人形劇の質を高め、幅広く観客を増やす努力が求められている。40年前、大人のためと必死で背伸びした情熱が出発点だったのかもしれない。