スタッフ
原作/岡田淳(偕成社)
脚色/吉田清治
演出/東口次登
人形美術/永島梨枝子
舞台美術/松原康弘
音楽/一ノ瀬季生
照明/永山康英
舞台監督/隅田芳郎
制作/古賀恵子
合唱/帝塚山少年少女合唱団
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キャスト
福永朋子、西島加寿子、荒木千尋、隅田芳郎
松原康弘、三木孝信、梶川唱太、西本武二(ビデオ出演)
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人形劇『ムンジャクンジュは毛虫じゃない』を観て
岡田淳(原作)
原作の本が出て30年、前回の舞台から20年。リメイクされ、生まれ変わったなつかしい友人に出会いました。物語の内容はわかっているのに舞台にひきこまれ、胸が熱くなり、人形劇ならではの工夫も楽しめました。
客席には、たくさんのこどもたちがいました。ムンジャクンジュのかわいい動きや関西のことばのやりとりに、思わず出てしまうこどもたちの笑い声が、人形劇全体の色合いをさらにしあわせにしていたように思いました。
しあわせ。そうです。この物語は、わがままな利澗追求の社会から、こどもたちが自然を守る話のように見えます(もちろんそういう要素はあります)が、じつはこどもたちのしあわせな姿をえがいたものであったということを、あらためて思いました。
それもそのはずです。なにしろこの物語は、それを絵にかきたくなるほど、〈みんなが、楽しくて、わくわくする〉お話として生まれたのですから。
ぼくたちが毎日のように目や耳にするニュースは、残念ながら、みんなが楽しくてわくわくするような、しあわせな姿ではありません。どちらかといえば、ふしあわせなイメージが多く積っていきます。そのような今だからこそ、しあわせな姿のイメージを持つことが必要だと思うのです。
信頼できるかどうかなど、考える以前の友人がいる。仲間がいる。それを支えてくれるおとなもいる。舞台でえがかれるそういう関係って、つくれるかもしれない。そういう生き方って、できるかもしれない。舞台を観たあとで、そんなことを考えました。
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「うらやましいクラス」
東口次登(演出)
この作品を最初に人形劇にした20年前は、学校には大きな塀も無く、警備員の人もいませんでした。土曜日も学校があって、校庭では誰でも自由に遊べ、地域の人にも開放していました。学校やクラスで起きた問題も、今ほど大きなニュースとして報道されませんでした。ところが今はイジメや自殺・暴力・虐待・殺人と深刻な事件が起こっています。子どもたちは、大人と同じ目線でその悲惨な事件を知り、学校で学びながら、自分自身をも守らねばならない深刻な時代となってしまいました。家族も先生も必死です。学校はクラスの中の一人として、みんなと過ごす大切な場所だったのが、緊張を強いられる場にもなっています。本当に理想的な学校やクラスって、どのようなものなのでしょうか?子どもたちはどんな学校生活を望んでいるのでしょうか? そんな声が聞きたくなるような人形劇です。
この芝居はムンジャクンジュという毛虫みたいな生き物を大人たちから守り育てる物語です。でも絶対一人では守れません、仲間がいるのです! 心から信頼出来る仲間が!それが5年1組のクラスです。みんなで話し合い納得して行動しあえる仲間、最後には先生も引き込まれる、とてもうらやましいクラスです。自分一人だけでなく、みんなと協力して何かをなすこと、そのためにはお互いの信頼がないとなりたちません。当たり前のことですが、これが出来ないのが現代社会です。でも、これ以上悲惨な事件が起きないためには、人と人が信じ合えることが一番だと思っています。
こんな5年1組のような仲間がどこの学校にも生まれたらなあと願っています。そして日本や世界の政治を動かしている人たちが、こんなクラスだったら世界は平和な世の中になるのになあと、大きな夢を描いています。
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『ムンジャクンジュ』との出会い
一ノ瀬季生(音楽)
人形劇『ムンジャクンジュは毛虫じゃない』は、1990年に誕生した。
この年、幼児作品として現在も上演中の『三びきのくまさん』を作っているが、この作品への子どもたちの反応の変化にこの20年の時の流れ、社会と子どもたちとの変化を感じている。
三匹のクマさんが散歩にでかけ、その留守中に女の子がやってくる。誰が住んでる家だろうと、子どもらしい興味でそっとドアを開けて家の中へ入っていく。このシーンで「ドロボウ・・・!」という声が子どもたちから度々聞かれるようになったのだ。女の子の行為を非難する反応は、少し前までは全く無かった。地域がひとつになって子どもの成長を見守るということがなくなり、子どもには他人から身を守ることだけを教えなくてはならなくなっている今の社会の不安が、反映しているのは間違いない。
『ムンジャクンジュは毛虫じゃない』を見てくれる小学生もまた、初演の頃の環境にはいない。それだからこそこの作品の中のこどもたちとの出会いが意味のあることと思っている。
変化したことと言えば、音楽も・・・。 『ムンジャクンジュ?』の楽譜はもちろん手書きだった。スタジオでの録音に持ち込むまで、せっせと指先をインクで真っ黒くしながら演奏者用のパート譜づくりにがんばっていたことが懐かしい(今の楽譜はパソコンで入力し、プリントする)。劇中に一曲だけ歌があるが、『ムンジャクンジュ〜』の脚色の吉田清治氏がその曲をとても気に入ってくれていたのが、忘れられない大切な思い出である。
舞台の画像はこちらから
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