ワニがうたえば雨がふる
スタッフ

企画・原案/宮本 敦 脚色・演出/東口次登 人形美術/菅 賢吉 舞台美術/松原康弘 美術助手/竹内佑子

音楽/金子鉄心 照明/永山康英 効果/大下貴史 舞台監督/宮本 敦 制作/中山美津子・松澤美保

物語

 私、カナ。小学校4年生。お父さんと二人暮らしです。お母さんは私が小さい頃、覚えてないくらい昔に病気で死んじゃった。でも今は親子二人、楽しく暮らしてます!
 待ちにまった夏休み!
 なのに、お父さんは出張で外国に行くんだって。私は一人でお留守番のはずだった。やったぁ!誰にも邪魔されない私だけの…!
「雨の向こう側からやってきました。わりあい近くですよ。雨のはしをちょっとめくれば、そこだけ明るくて、かたつむりの殻のようになってる所がある、それが雨の道です。」
 雨の向こう側の世界から来たっていうワニは、好きな時に好きなだけ雨を降らせることができるんだって。
なんだかおもしろそう!! よろしくね、ワニさん!
 そういう感じで、私たちの夏休みは始まった。 

 お父さんが出かけて、悲しくはないんだけど、胸の辺りが何かへんな感じ。胸の中にすき間ができたみたい…。
「それを寂しいっていうんじゃないのか?」ってワニは言うけれど・・・。
「カナちゃん、湖を見に行こう! 今夜はとびっきりの満月…。こんな夜、雨の向こう側の湖に棲む魚たちは空を泳ぐ。その魚たちの落とす雫を飲むと、願いごとが叶うんだ。さぁ、一緒に夢を飲みに行こう!」
 私の夢??! …私、お母さんに会いたい!
ワニが歌うと雨が降り出した。

   ♪雨はかってに 降ってくる 
    ずんずん歩けば ざんざんふるよ 
     ずんずん ざんざん ずんずん♪ 

 雨の向こう側ってどんな世界だろう…。

 あれれ!? 雨の向こう側から何かついて来ちゃった!!
ふわふわっと毛玉みたいな、しっぽのあるこの生き物は一体、何…!?


「ココロの中の世界をファンタジックに」

                         脚色・演出/東口次登 


 父子家庭の一人っ子の女の子の物語です、と書いた途端、悲劇的に思われる方が多いのではないでしょうか? いえいえ、ぜんぜん違います。
 主人公のカナの父は、海外出張に出かけることになり、カナを一人残すのは危ないと考えて用心棒を雇います。なんと、それがワニなのです。常識的に考えるなら、ワニは暴力的でカナを虐待しそうですが、とっても優しくて、頼もしいのです。二人の愉快で不思議な毎日が始まります。
 単なる用心棒であったワニが、カナのココロの奥まで見つめてくれます。だからカナもココロの中を開いて見せてくれます。「ゲーム脳」という言葉で語られてしまう今の子どもたちに、「ココロをひらく」ことが、今だけでなく永遠に大切なことだと感じて欲しいと思うのです。それはまた子どもだけのせいではなく、大人の責任でもあります。この芝居に登場するワニは、私たち大人が果たしてないものを明快に子どもたちに表現してくれます。きっと、ワニがお父さんであってくれたら…と思うはずです。
 本当に信じあえるもの同士の世界は、とても素敵で感動的です。観てくれる子ども達がとってもうらやましく思える、そんなココロの中の世界をファンタジックに描いてみたいと思います。